鈴の音

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◇爽也◇ 高橋 爽也は、この春、大学生になった。 新たに交流を拡げている内の一人に、ちょっと変わり種がいた。 その学生は、自分と同じ学部で、よく話す連中の一員だった。 常に群れている訳ではないが、なんとなく話の合う同士で一緒にかたまっていた中に、まるでお笑いトリオのような、眼鏡の三人組がいた。 ぽっちゃり体型の佐藤、やせっぽちの鈴木、そして件の変わり種の弥栄だ。 弥栄は、鈴木や佐藤より背が高く、鈴木並みに細い。 そして何より意外なのは、弥栄がこの工学部で数少ない女子学生だという事だ。 工学部内では、眼鏡三人組は実力派として名を馳せていた。 技術畑の佐藤と、理論派の鈴木、弥栄として、皆に一目置かれている存在だった。 彼らと親しくしておいて、試験をのりきろうと考える輩は少なくない。 その筆頭は八木というお調子者だ。 爽也もご多分に漏れず、そんな下心で近づいた一人だった。 しかし、思いの外話が合うので、当初の思惑は何処かへ行ってしまった。 「なぁ、お前らって以前からの知り合い? 」 爽也が問うと、鈴木が返答した。 「いや、佐藤とは高校が一緒だけど、弥栄は大学からだ」 「へえ~? それにしちゃ、仲いいな? 」鈴木は大して意に介していない様子だった。 三人とも純粋に専門分野の話題で盛り上がっており、他の浮わついた連中の話しと相容れないだけらしい。 爽也自身も、どちらかといえば浮わついた連中の方に近い部類だろう。 だが、鈴木達と居る間は、彼らの話題に付き合う方が楽しかった。 特に弥栄は、相手の呼吸に合わせて接する事に長けていた為か、一緒に居て楽だった。 持って生まれた顔のせいで、爽也は黙っていても女の子が寄って来るので、不自由しない反面、辟易する方が多かった。 だから、一緒に居ても異性を感じさせない弥栄は、爽也にとって貴重な存在だった。image=342537534.jpg
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