鈴の音

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◇充◇ 規則正しい充の生活に、突如湧いて出たイレギュラーが砂田の存在だった。 何故か充の行く先々に、あのブリーチ斑頭が現れて、人懐こい笑みを浮かべ話し掛けてきた。 「あ、居た居た。ヤサカさん、此処いい? 」 今日は学食で出くわした。 砂田は充の返答を待たず、定食の盆を隣に下ろしていた。 別に断る理由もなかったので、小さく頷いた。 「どうぞ」 「ありがと~。ヤサカさんは、午後の講義とかあるの? 」 砂田は充の返事があろうとなかろうと、延々と喋り続けた。 ほとんど中身の無い、その場のノリの話ばかりで、充は少々辟易した。 ただ、砂田に悪気は全くなさそうなので、充は適当に聞き流していた。 「あれ、ヤサカさん、食欲無いの? 」 気が付くと、あれだけ喋りっぱなしの砂田の方が、充より早く昼食を平らげていた。 (どうやって喋りながらこんな早く食べれるんだ? ) 充が呆れて砂田の空いた皿を眺めていると、砂田に手元を覗き込まれた。 「箸、止まってるけど、それもういらないの? 」 「ああ、もう入らない」 「へぇ、少食なんだね~。だからそんな細いんだ? 」 「さぁ? 」 ヘラヘラと笑い掛けてくる砂田の意図が判らず、充は戸惑っていた。 充は元々、自分の外見には無頓着だった。 服は某量販店の男物ばかりで、言葉も態度も素っ気ない。 名前まで男っぽいので、初対面では十中八九、男に間違えられた。 しかし、砂田は違った。 初めから充を女の子扱いするし、言葉や態度の端々に好意を滲ませていた。 これまでの人生で、色恋沙汰と無縁に過ごしてきた充にとって、砂田は異次元の生物と同じ位、判らなかった。 砂田をどう扱っていいのか、充は持て余し気味だった。
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