月と負け犬

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  吐く息が熱くなっている。 歩幅が自然と大きくなる。 今日、新しいあたしで生きる。 「おはようございます!」 いつもより大きな声で挨拶する。 部長が振り返ったので、すかさずあたしは喋る。 「部長、昨日は申し訳ありませんでした。自分のミスの尻拭いもせずに、黙って立ち去って。」 部長は目を丸くしている。 「もう一度チャンスを下さい。今度はミスしないように、きちんと頑張ります。」 お願いします。と、頭を下げると、部長はやれやれと言った顔をした。 「別に、ミスをしないことがいいってわけではないんだが…。」 部長は咳払いをひとつする。 そしてあたしの手にファイルを置いた。 「いいか、失敗することばかりが問題とは限らない。ミスしても、その後どう行動するかが大切なんだ。」 「他のやつに頼むつもりだったが…任せよう。君に。」 部長はそう言って自分の席に戻っていった。 「ありがとうございます!」  
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