月と負け犬

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  「ただいま。」 誰もいない部屋に帰還を告げる。 寒々しい空気を纏ったあたしを、この部屋だって歓迎しているわけではないような気がした。 コートとバッグを無造作に置き、ソファーにダイブする。 寝転がったまま大きな溜め息をついたら、涙が止まらなくなってしまった。 情けない。情けなくて、苦しい。 誰も助けてはくれない。 どうして、あたしは人を嫌いになれないのだろう。 相手はあたしのことなど、きっと無関心だというのに。 あたしが嫌いになれない人は、あたしが苦しい時に来てくれないことなど、昔からわかっていたのに。  
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