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日の光りが入る質素な木造の部屋へ、そよ風がカーテンを揺らし入ってくる。
部屋のベッドには、先日エストレジャとルナが助けた男が静かに眠っている。
風は冷たさを孕んでいたのだが、暖かな陽気のおかげで爽やかさと言える程度だった。
久方ぶりの晴天に、何処にも雨の気配は無く、カラッとしている。
雨期が終わったのだ。
一際強い風が部屋へ流れ込んだ時、今までピクリとも動かなかった男に変化が訪れる。
もはやベッドの一部となっていた男は、目元を被う睫毛を静かに震わせた。
ゆっくりと開かれた瞳は深い翡翠の色を顕にし、何処か焦点のあわないまま部屋に視線を向ける。
「見る」というよりは「眺める」という漠然な表現が正しいだろう。
「…っ…こ…はっ…ゴホッ…ぅぐっ…」
疑問を口に出そうとし、咳込む男。その振動が傷にふれたのか痛みに苦悶する。
少しして痛みが治まり、涙目になりながらも、だいぶ焦点のあった目で周囲を見回した。
揺れるカーテン。
本の詰まった棚。
開かれているドア。
全く見覚えがない部屋に男は不安を覚えたようだった。
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