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そもそも、アタシが住んでいるトカッシュ地方は冬が近づくと雨期がやってくる。
長くて3週間降り続けることだってあるし、断続的に降ることもある。
だから、何時降り止むかもわからない空のご機嫌を伺うよりは、家に閉じこもっていた方がよっぽど気が楽なのだ。
…娯楽は少ないけど。
「んー、次はこれに…」
キギーッギギガッガガガゴッキギキーッギギギッキーッ
まさに本棚から本を取り出そうとした時…
木が軋んで折れそうな、はたまた黒板を爪で引っ掻いたような、氷でも削っているようなとてつもない不協和音。
…つまり我が家の玄関の扉が開く音が聞こえた。
恥ずかしながら、我が家の玄関の扉だけは、そうこの扉だけは!史上最悪と言って良いほど建て付けが悪いのだ!
言い訳ではないが玄関の扉は…
金具に油を差しても扉自身を削っても金具を変えても床を削っても最終手段で扉ごと変えても…
不協和音は少しも改善されなかった。
呪いだ。もうこれは呪いだとしか思えな…
ドカッ
ゴンッ
『ただいま!エストレジャ!』
頭に直接響くような女性の声と、共に降りてきた物理的衝撃に耐えきれず。
前方の本棚に顔面を強打した。
鼻が痛い。すごく痛い。
あ、なんか鼻血でそう。
『もぉ、ドジっ娘なんだから』
「るにゃのしぇいだろ!(ルナのせいだろ!)」
鼻を押さえて痛みに耐えていたが、痛みの原因による理不尽な発言に、振り向きざまに反論する。
『あのぐらい、受け身をとれなきゃダメよ!』
堂々と言い放つのは、つぶらでキラキラとした満月色の瞳をもった
規格外な大きさの、白い犬。
しかも、今まで外に居たからずぶ濡れだ。
「ルナ、とりあえず足どけて。」
アタシの背中もその被害を受けじんわりと冷たい。
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