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雨によってへばりつく前髪がうざったい。
それに、すでに体の芯まで冷えてしまった。
冬が近いからしょうがないが、これでは、アタシの方が凍えてしまいそうだ。
よくもまぁ短時間でこれだけ濡れたものだ。
前髪をかきあげようにも片手を放したら全力疾走中のルナから転げ落ちるだろう。
そうしたら怪我人の手当てどころではないのは明らかだ。
『ーー着いたわっ』
雨と風によって体が冷えきり震えだした頃。
ルナの声が響くと共に、急停止によって彼女の後頭部へとアタシの顔が勢い良く埋(ウズ)まる。
…どうやら目的の場所へと到着したようだ。
家を出るときよりも暗くなっているので、カバンから封光石(ルクスシェプトル)を取り出し、発光させることは忘れない。
『ここよ。この木の下にいるわ』
ルナから降り、正面の巨木へと目を向ける。
確かに根本に黒い固まりがぼんやりと浮かび上がるのを確認し、急いで近くまで寄る。
「おいあんた!生きてるか!」
駆け寄って声をかけるも反応が全くない。
遠目かつ薄暗い中では性別まではわからなかったが、骨格を見ると男性であるようだ。
長い髪の毛で顔は見えず、やけにボロボロの黒い服を身に纏っていた。むしろ体に服が引っ掛かっていると表現した方が良いだろう。
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