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ふくだじぇんとる
「いいの?福ちゃん」
「なんのこと?」
「わかってるくせに…」
にやりと口の端を上げて笑う。福ちゃんは悪い人だ。
「わかんないよ」
今も、笑いを堪えるように俺に微笑む。ホントに悪い人。
「伊藤ちゃんだよ」
「ああ…」
「福ちゃん…」
「ジェントルは、いいの?」
ほらまた、同じ笑い方。どうせ楽しんでるんだ、俺で。
「俺は竹内さんだけだもん」
「純粋だねぇ~」
「福ちゃんこそ」
「俺?俺は違うよ。醜い感情だけ」
確かに。だが、福ちゃんは純粋だ。俺が伊藤ちゃんの話をするだけで明らかに不機嫌になる。それがたとえ、先輩でも。
「俺は、伊藤を独占したいだけだよ。犬みたいに躾して、俺だけの言うことを聞くようにしたいんだ」
真剣な、目だった。まだ笑って言っていたら余裕はあったけど。
「だからジェントルには優しくしてあげる。伊藤の分もね」
「…オカシイよ」
真剣に言ったら声を上げて笑われた。…福ちゃんがわからない。
「ははっ…うん、普通はね」
福ちゃんは細い目を更に細くして俺を睨みつけた。これが『蛇に睨まれた蛙』なのかな?体が1ミリも動かなかった。
「だからわかるでしょ。伊藤は特別なんだよ」
何故か俺は泣きそうになって、竹内さんの所に行って一刻も早く安心したかった。
「ねぇジェントル、この話は俺とお前の秘密、だからな?」
近づいて来る福ちゃんを俺は避けることができなかった。
(重なり合ったそれは、涙の味がした)
END
きちだには色々と間違ってほしい
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