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しらいきくち
「入ってくんな」
温度のない瞳で俺を見つめる。そこからはあまり感情が読み取れなかったが、怒りだけは読み取れた。
「入ってきたら絶交だぞ」
なんて子供染みたことを言うんだ、こいつは。今時絶交なんて言う29歳がいるか。
「いいよ」
少し微笑んで言うと白井はもっと不機嫌になって俺を睨みつけた。
「なんだ、不満なのか?」
「黙れ」
本当に子供の様だ。
「何、どうした?」
「嫌い。お前なんて嫌い」
やっと瞳に感情が戻ってきた。まあ、怒りだけど。
「大嫌い。愛してる」
「どうしたの?」
「やだ、やだやだやだ……嫌い嫌い嫌い嫌い」
「鉄也、泣くなよ」
「やだやだ、愛して、嫌い…嫌い嫌い」
「泣くなって」
「嫌い嫌い嫌い、嫌い?」
「鉄也」
「愛して、愛してる」
「うん」
「嫌、なの」
「大丈夫」
「ね、嫌なんだ。愛してよ」
「うん、鉄也。大丈夫だからな」
子供のような澄み切った瞳に戻ったら、ギュッと俺を抱きしめる。元々の体格差で俺はすっぽり鉄也の腕の中に包み込まれた。
「嫌、嫌い、嫌なの」
「大丈夫」
「…ほんと?」
「うん」
きくち、と初めて名前を呼んだ。
「愛してる」
(心なしか腕が震えていた)
END
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