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そんなある晩のことだった。
「お、お願い! 助けて!」
あたしの巣に迷い込んだ哀れなやつが毎度お馴染みの台詞を吐いた。
なんでこう罠にかかった獲物ってのはこう判を押したように同じことを言うんだろう?
そんなことを考えながら一歩ずつ獲物に近付く。
あたしの細い8本の足がしなやかに糸の上をスライドしていく。
「ああ、今日も月がきれいね。
あなたの羽根もなかなかだけど、あの月にはかなわない」
あたしはジタバタ暴れる獲物を押さえつけて、なんとなく呟いた。
意味などない。
あたし達は食料と捕食者であって友達ではないから。
「イヤァ! 助けて、助けて!」
「……もしあなたがあの月よりも美しかったら、殺しはしないのだけど」
あたしは戯れに笑って獲物に噛みついた。
あたしの牙が獲物の触覚を引きちぎる。
「月よりも美しいものを教えてあげるといったら……
逃がしてくれる?」
なんだって?
あたしの心にほんの少し、隙間が空いて何かが入り込んでくるような感覚がした。
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