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「……そんなもの、あるの?」
そう質問を返した頃には、心に入り込んだ僅かな好奇心があたしを満たし、食欲はすっかり消えてしまっていた。
あたしは食事をやめにして、延々蝶の話を聞いた。
外の世界の話を。
外の世界にある、たくさんの美しいものの話。
あたしは時間を忘れてそれに耳を傾けた。
気付くともう月は消え、眩しい太陽の光が射し込んできていた。
夜型のあたしにはもう寝る時間だ。
「もう行きな。二度と巣にかかるんじゃないよ。
あたしは寝る」
あたしは触覚を一つ失った蝶を糸からほどいてやった。
「ありがとう!」
フラフラしながら何度も頭を下げる蝶。
射し込む光の中で蔵の埃だか羽根の粉かよくわからないがキラキラ舞っていて妙にきれいだった。
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