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その歌は、この数日、時間こそバラバラだったが、休むことなく毎日聞こえてきた。
誰かの嫌がらせか、それとも何らかの自然現象なのか・・・、
老人はもう何度も、部屋の中も外も隈無く調べたが、何処から、何故、歌が聞こえてくるのか、原因を特定することが出来ないでいた。
その事がまた、高名な科学者であった彼には気に入らないらしい。
歌っていたのは、屋根の上のベルだった。
* *
短い歌を、今日は3度繰り返す。
歌い終わって大きな溜め息を吐くと、今にもポタポタと降り出しそうな雲を見上げ、ベルはゆっくり翼を広げ始めた。
そして飛び立とうとした瞬間、突然ふくらはぎを撫でられたような感触に、悲鳴を上げた。
「ひゃぁっ!!」
悲鳴に併せて、リンと鈴が鳴る。
足元を見ると、ベルのむき出しの細い足首に絡まるようにして、薄灰色の猫が一匹、彼女を見上げていた。
「帰っちゃうの?」
「つ・・・月白(つきしろ)様ぁ。
驚くじゃないですかっ。」
月白と呼ばれたその猫は、金色の目を細めて『クフッ』と鼻で笑った。
彼女は、昔々一羽の雀だったベルが今の姿を得る際に立ち会い、以後色々と面倒を見ている者だった。
ベルにとっては恩人であり、上司のような存在でもある。
以前はいつも、なかなかに妖艶な女性の姿をしていたのだが、何かの折に猫の姿で現れた時のベルの反応が気に入ったようで、(何せ元は雀だ)以来、度々猫の姿で現れるようになった。
ベルが不満そうに呟いた。
「何でまた猫なんですか?」
「屋根の上だから。」
月白の台詞に、ベルは納得できない顔をした。
「で?もう帰っちゃうの?
彼のこと心配じゃないの?」
月白の台詞に、普段穏やかなベルが気色ばんだ。
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