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「何者だ・・・??
お前は・・・??」
老人は、落ち窪んだ目を、飛び出すかと思う程見開いて、突然現れたベルを隅々まで観察しながらそう聞いた。
その様子は、単に驚いているというよりも、興味深い、意外な実験データでも見ているようだった。
「チェン・ウーシェン(陳 舞笙)さんですね。
ベル・リーデンドと申します。」
ベルが丁寧にお辞儀をし、挨拶をしたのも耳に入っている風ではない。
「仔猫の一匹さえ入れないはずだ。
この世界の者ではない・・・、天使なのか!?
まさかそんな者が本当に存在するとは・・・、いや驚いたことだ!!
いやいや。だいたい居ったとしても、天使なぞ、この私に恐れをなして寄り付かんだろうと思っておったがな。」
老人は、口元を歪めて、どこかしら凄惨な印象の笑顔を作った。
「で?この私を、死出の旅路に迎えに来たと言う訳かな?
考えてみればのんびりした迎えだ。
もっと早くに来るべきではなかったかね?」
「いいえ、違います。ウーシェンさん。」
ベルは少し声を大きくして、キッパリと彼の言葉を否定した。
「迎えに来たのではありませんし、そもそも私はキリスト教でいうところの天使とは・・・、」
ベルは、老人が眉をしかめ、不思議そうな顔で、押し黙って自分を見ているのに気が付いた。
「? あの・・・。どうかしましたか?」
「ああ・・・。いや、何でもない。
なに。名前で呼ばれたのが久しぶりだったものでね。
近頃では皆、私のことを『博士』とか『悪魔』とか呼ぶ。」
老人はベルを見据えたまま、再び、ニヤリと笑った。
「ではあらためて尋ねよう。
私の目の前に立っている可愛らしい天使は、いったい何をしに来たのかね?
この悪魔のところに。」
『やっぱり一筋縄ではいかなそう。』
そう考えながら、ベルは負けじと相手の目を見詰め返す。
「古い、古い約束を果たしに来ました。」
「古い約束?覚えておらんが・・・、」
「はい。
覚えていらっしゃらない事は分かっています。
けれど遠い過去、私はあなたと出会い、願いを託されました。
私は必ずその願い通りにすると、お約束したのです。」
「察するところ、前世とか言うものか?
一体どんな願い事をしたと言うんだね?」
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