《暗雲》

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「歌を、届けて欲しいと・・・。」 「歌だって!? さては、さっきの歌は・・・、いや、この間からしょっちゅう聞こえてきた、あの忌々しい歌は貴様の仕業だったのか!?」 感情の起伏が激しい人物なのか、老人が急に目を吊り上げ、唾を飛ばして叫んだ。 しかし、ベルもたじろがない。 「あなたは、あの歌が大好きだったんですよ。私にも幾度も歌ってくださいました。 そして亡くなる時、私に歌を覚えていて欲しいと・・・、自分を見つけたら歌を教えて欲しいとおっしゃったんです。」 「悪いが歌もお前さんも、覚えておらんものは覚えておらん! だいたい何なんだあの歌は!? あれを聞くと私は・・・、」 老人は火の付いたような剣幕で、両腕を上下に振り回しながら、ベルに詰め寄ろうとした。 しかしそれは、突然の訪問者によって遮られた。 前触れもなく、ドアが勢いよく開かれ、体格のいい男が一人、部屋に入って来たのだ。 年齢は40歳前後といったところか。 「一体何を騒いでいるんだ?」 「シンウェイ(星衛)か。ノックぐらいしたらどうだなんだ!!」 入ってきたのはチェン・シンウェイ。 ウーシェン博士の一人息子である。 「ふん! とうとう気でも触れたのかい?」 「何でもない!お前には関係のないことだ! そこを閉めてとっとと出て行け!」 「関係ないだって!? そりゃあ・・・どう致しまして! 分かりきった事を聞いちまったらしいな。 気なら15年前から違ってたか?」 「口を慎め!!もう、いい年だろう! 親への礼儀もわきまえんのか!?」 彼は突っ立っている天使には目もくれず、ズカズカとその横を歩いて、殴りかかりそうな勢いで父親に近付いた。 どうやらベルは老人にしか見えていないらしい。
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