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俺は夢を見ていた。
夕暮れ時。秋の木が鮮やかに色を付ける。綺麗なオレンジを目に映し俺は地に落ちた枯れ葉を踏み鳴らしながら歩いていた。
じゃに、じゃに。
意味なくこの音が好きだった。
枯れ葉がある所を夢中で探して踏む。何度も何度も飽きずに。
子供だった。これは幼い頃の俺。
いつだっただろう。覚えていない。記憶をたどっても残っていない。忘れ去られた。そんなうっすらとした遠い日の思い出――
遊びから帰る途中。近くの神社に寄り道して境内から真っすぐ伸びる道を繰り返し往復する。
時折吹く風に揺られ木々から落ちる葉が絶えることはなくて。
俺は時間を忘れて踏み鳴らす。
じゃに、じゃに。
何度目かの往復。境内の方に気配を感じ俺はふと立ち止まった。ゆっくり振り返り目を懲らす。
風で舞ったいちょうの葉が視界を奪う。その先に見えた人影。
俺と同い年くらいの女の子。
「誰だ?」
夢の中の俺は目を細め言った。
「――…だよ」
少女は何か呟く。その後口元を細くし笑ったような気がした。
「え?」
聞こえずもう一度聞き直すがそこでさっきより強い風が二人を襲う。俺は咄嗟に目をつぶる。
風が収まり再び目を開けた時、少女はもうそこにいなかった。
この夢を見て改めて感じる。
これが俺の初恋。
顔を完全に見た訳ではないがあの穏やかな笑みに惹かれた。ゆったりとした優雅な雰囲気に。
これは儚くて朧げな記憶。
俺の大事な想い出。
あぁ…
なのに最近忘れてた、なんで?それはもう。あいつの呪縛から逃れようと必死だったから――
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