始まりの音

3/25
前へ
/98ページ
次へ
「久則ぃ、今日も目覚ましに来てやったわよ感謝しなさい!」 偉そうな上から目線の声が響く。奴だ。瞬間、もの凄い勢いで俺に向かって突進してきた。 ズガンッ―― 緊張の解いた無防備な俺。奴もろとも床に叩き付けられる。 ゴンッ.. 「痛ぇ」 頭がくらくらする。 俺は激痛が走る頭を押さえながら上半身を起こした。そして霞む目を細めて確認する。俺の腹にギュッと抱き着く奴の姿を… 茶色い肩下までのツインテールが揺れ、吊り目ながらも柔らかい口元が不気味な笑みを産む。 人に突進しておいて謝る気など更々ない自己中心的な性格。 「何でそんな所で寝てるの?早く起きなさい、学校行くわよ」 「お前なぁ、誰のせいでこんな格好してると思ってんだ!」 堂々と抱き着いているのを忘れて無理難題を押し付けてくる。 「へ?あ…し、知らないわよ、あんたがそこにいただけでしょ」 奴は今の自分の体制に気付き、ハッと顔を赤らめる。が少しして逆切れしたように叫んだ。 「私は悪くないわ」 「だったらすぐ退けろ」 「い、嫌…」 「なんで?」 俺には理解できない。 「居心地がいいからもう少しこのままで居てあげるわ」 朝の陽気のせいかほんのり赤くなった顔をふいと横にそらす。 「はぁ」 奴の傍若無人っぷりは今日も健在のよう。俺はため息を付いた。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加