紙ヒコーキ

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冬の薄い空色が四階のこの場所から良く見えた。 夏の濃い空の色も好きだが、なんだか寂しいこの冬空も嫌いになれない。 日曜日の教室は少し肌寒く、自分の歩く足音が辺りの静かさを強調する。 自分の席に座るわけでもなく、自分の斜め隣。 窓際の前から3番目の席に座る。 机を見ると、らくがきがちらほら。 机の中には当然のように教科書が置いてあり、金曜に数学の宿題が出たのに数学の教科書も置いてあった。 きっとノートはロッカーに入れているだろう。 明日自分に写させてと頼んでくる彼の姿を思い浮かべ、くすりと笑う。 勉強が嫌いで、強がりで運動は無駄に出来て馬鹿でまっすぐでそのくせ読めないところもある奴で。 でも私は、 そんなあいつが…。 そっと、鞄から真っ白な紙を取り出す。 そして、丁寧に折っていく。 私が思いを伝える事はない。 だって私はあいつの瞳に移るものを知らない。 知れない。 届かない。私には、きっと無理。 窓を開けると冷たい風が入って来た。 手に持った紙ヒコーキを投げる。 紙ヒコーキは風に乗って、危なっかしく、不安定に飛んでいく。 届け、届けて紙ヒコーキ。 きっとそのうち、彼に届く前に壁にぶつかってしまうだろうけど。 そんな事わかっているよ。 それでも、 届いたらいいのに。 紙ヒコーキが落ちていた。 俺はなんとなく、その紙ヒコーキを拾った。 意味なんてない、でも手に取った。 少し泥のついた紙ヒコーキを広げると、真っ白だった。 何も書かれていない、真っ白な紙ヒコーキ。 俺はもう一度紙ヒコーキを折った。 そして、投げようとした手を止めた。 俺はぐしゃりと紙ヒコーキを握り潰した。 丁寧に折らさっていたそれ。 彼はぐしゃぐしゃな紙ヒコーキを捨て、何事もなかったように歩きだした。 届かないと、最初からわかっているのなら、 俺は… End
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