43人が本棚に入れています
本棚に追加
気配が離れてから石川は口を開いた。
「まさか、本当に亡くなられてしまうなんて」
一つしかない電灯が小刻みに揺れる石川の白い項を照らす。
「人は何時か必ず死ぬ。それは我々も変わりはせぬ。北方様はそう仰っていたじゃないか」
「ですが……」
鼻声は僅かの反発を見せたが直ぐに萎れる。仏壇より流れる紫煙が憔悴を色濃く浮き立たせた。
石川、笹木らは北方様の死により精神的支柱を失った。北方様は彼らの指針であり、誇りであり、父であった。
信頼出来る強固な力と叡智を備えた北方様を慕う部下は後を絶たない。彼らもまた同じだった。
その死は余りに大きい。
そしてこの件は彼らが所属する組織にも多大な影響を与えていた。
「問題はこれからだろうな」
笹木の言葉に石川が反応する。
「どういう事ですか」
「五大祖は『角端』の名を継ぐ水の首席を組織外から撰定した」
「そんな!」
笹木が人差し指を口に当てて見せると石川は声を落とした。
「北方様が後継者を指名しなかった今、次の首席は荒田二位ではありませんか」
「分かっている。だが五大祖は中方様を除いて一致した。五大祖の一人、それも最も力の強い北方様が欠けた事に対して、組織はバランスを求めている。荒田二位では内部の拮抗が望めないと判断したのだ」
石川は信じられないと涙を浮かべた目を見開いた。そしてハンカチを固く握ると俯きながら思いつく人物を挙げた。
「……では、青眼(セイガン)を迎えようと言い出すのですか。五大祖は」
「ああ。そうらしい」
「無理に決まっています。我々は青眼を幾度と訪い勧誘し、時には攻撃してきました。そしてその試みは全て破られた。それはあなたも知っているでしょう」
最初のコメントを投稿しよう!