序幕 [01]在ル男ノ死

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 石川の言う通り、彼らは『哀弔の青眼』と呼ばれる同胞を組織に引き入れようと幾度と手を尽くした。だがそれら全て失敗に終わっていた。  力に差があり過ぎるのだ。  親切にも青眼が手加減してくれるお蔭で組織の被害は小さかった。それが裏目に出て組織が幾度と動いた事に当の本人は気づいていない。  組織のトップである五大祖からも一人二人襲撃した事もあった。それでも青眼を捻じ伏せる事は出来なかった。  それだけの力を保持している相手に対し五大祖は夷滅か勧進の二つしかない。何故か五大祖に放っておくという選択肢はないのだ。 「そこで子供だ。五大祖は子供を引き入れる、或いは拉致して交渉のカードにするらしい」 「子供……確か青眼の息子は力を保持していませんよね」 「諜報によれば親の七光り程度ならあるそうだ。どうやら青眼が必死に封印していたらしい。五大祖は封印の解除から編入までシナリオを書いた。のだが……」  笹木が口を閉ざすと石川は残っているだけの涙を拭いた。 「のだが、何ですか?」 「我々はそれに組み込まれていない」 「何故ですか」 「五大祖は確実に青眼を捕縛したいのだ。子供の懐柔は専ら『銀の鶏頭』が実行する。その他臨時の遊軍も我々は配置されなかった」  鶏頭の名を聞いた途端に石川は顔を顰めた。 「新入りの、しかも子供に良い所取りさせる訳ですか」 「俺に言っても困る。それにあの子の実力は確かなものと聞く。お手並み拝見といこうじゃないか」  笹木は石川に、そして自分に言い聞かせるように言った。 「私達は何も出来ずに見ているしか出来ないのですか?」  しかし笹木は答えなかった。その時障子の向こうから近づく足音が聞こえてきたからだ。 「どうぞお茶です。遅くなってすみませんね」  初老の男性は目尻の皺を深めながら盆を差し出した。  受け取ると湯呑みの温かさは手に心地良い。笹木が湯呑みに口をつけようとすると薄緑の液体中に茶柱が立っていた。  故俗に茶柱が立つのは吉事の兆というものがある。  石川の言う通り笹木は何も出来ない。  常に下の者達を教え導き、組織を嘗ての姿に戻そうと尽力した北方様を失った事で、理念から外れ始めた組織を留められる者も皆無。  今の笹木には茶柱が神の皮肉にしか見えず無性に腹が立った。
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