30041人が本棚に入れています
本棚に追加
もう十年以上前だというのに覚えているものだ。
一年前学校の中庭でカレンとの出会いについて話した時もそうだったが、皆との出会いも俺にとっては忘れえぬものなのだろう。
そんな感慨に浸り、目の前に居るグレモリィに向けて口を開く。
アルとの出会いを話すために。
しかし、その行為には思わぬ邪魔が入った。
『ライル様。思い出話も大切かもしれませんが、ライル様は戦い帰還したばかりなのです。早々にお休み下さい。』
ヘルヴェールが俺の口に手の平を当てて言葉を止め、淡々と俺に言った。
「む、そう言えばそうだった。僕は戦場には行ってないが、ライルは戦ったのだったな。疲れているところすまなかった。」
と、グレモリィまでが話しを止めた。
「……そうだな。まだまだ先は長い。初日から無理したらまずいかな。皆の話は明日するよ。」
「ああ!約束だぞ!」
なんて元気な返事を返してくれたグレモリィは、また明日な、と言って執務室から出ていってしまった。
まさに嵐の如く、と言うのか。
グレモリィの元気の良さに刺激されて俺も多少なりとも元気になったような気がした。
『それではライル様。お休みになれるお部屋に御案内いたします。』グレモリィが出て行った扉を見つめたままだった俺にヘルヴェールがそう言って、俺の隣から扉の方に移動した。
俺は一度頷き椅子から立ち上がり、ヘルヴェールの後を追って扉の元へ向かう。
そうしてヘルヴェールが扉を開けようとノブを握った瞬間、扉をノックする音が聞こえた。
ヘルヴェールはついでと思ったのかそのまま扉を開くと、そこには先ほどエリスと共に出迎えてくれたメイドさんが良い香りのする台車を横に置いて、姿勢正しく立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!