241人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が12の時だった。食い物もない、何もない部屋で、俺はあの女を待っていた。極限の飢えと恐怖と憎しみが、俺を狂わせた。
女はいろんな男と遊び歩いては、何日も家を空けた。俺は置き去りにされ、学校の給食だけで生き延びていたが、当然あの女は学級費も給食費も払わなかった。
飢えれば、コンビニに万引きに行く。喰わなければ死ぬ。それだけだった。いつしかあの女に殺意を抱き始め、いつも懐にナイフを持つようになっていた。
そして、ある日。
女はおんぼろアパートに帰って来た。やくざもどきの情夫を伴って。
ガシャーン!!
皿が派手な音をたてて砕け散った。破片が、俺の頬を切り裂く。やくざもどきが、俺の襟首を持ち上げほえ立てた。
『てめぇが息子か?へぇ、本当に女みてぇな面してやがるぜ』
女がニヤニヤ笑いながら言った。
『かわいいだろ?男だけどその筋に売れば高値がつくさ』
やくざもどきがニタリと舌なめずりをする。
『ああ。外国に売り飛ばすか、ポルノに売るか』
吐き気がした。こいつら狂ってる。
『よかったわね、真那白。その父親譲りの綺麗な顔が、始めて役に立つんだよ。』
そう言って、女は狂ったように笑い続けた。
俺の中で、何かが壊れた。
パキーン…
それは、ガラスの割れる音に、少し似ていた。
***********
気が付けば、俺の手は血塗れだった。
ナイフを、両手に握り締めて。
やくざの情夫は、腹から血を流して悶えていた。
『いてぇ…いてぇよ…ひぃぃ』
死にかかった芋虫がのたくっているようだ。
女は腰を抜かして怯えていた。後退り、喚く。
『この化け物!!こっち来ないでぇ!!』
ひぃぃ、と頭を抱えてうずくまる。
『ママ…。』
いてぇいてぇと喚く芋虫の喉を切り裂いて、留めをさす。
やがて芋虫は動かなくなった。
血に濡れた手を、女に差し出す。
『ママ…』
女は、その手を振り払い叫ぶ。
『この悪魔…!あんたなんか私の子じゃない!!』
俺はふたたび、ナイフを翳した。
『ママ、大嫌い。』
最初のコメントを投稿しよう!