堕天使

4/11
前へ
/88ページ
次へ
俺が12の時だった。食い物もない、何もない部屋で、俺はあの女を待っていた。極限の飢えと恐怖と憎しみが、俺を狂わせた。 女はいろんな男と遊び歩いては、何日も家を空けた。俺は置き去りにされ、学校の給食だけで生き延びていたが、当然あの女は学級費も給食費も払わなかった。 飢えれば、コンビニに万引きに行く。喰わなければ死ぬ。それだけだった。いつしかあの女に殺意を抱き始め、いつも懐にナイフを持つようになっていた。 そして、ある日。 女はおんぼろアパートに帰って来た。やくざもどきの情夫を伴って。 ガシャーン!! 皿が派手な音をたてて砕け散った。破片が、俺の頬を切り裂く。やくざもどきが、俺の襟首を持ち上げほえ立てた。 『てめぇが息子か?へぇ、本当に女みてぇな面してやがるぜ』 女がニヤニヤ笑いながら言った。 『かわいいだろ?男だけどその筋に売れば高値がつくさ』 やくざもどきがニタリと舌なめずりをする。 『ああ。外国に売り飛ばすか、ポルノに売るか』 吐き気がした。こいつら狂ってる。 『よかったわね、真那白。その父親譲りの綺麗な顔が、始めて役に立つんだよ。』 そう言って、女は狂ったように笑い続けた。 俺の中で、何かが壊れた。 パキーン… それは、ガラスの割れる音に、少し似ていた。 *********** 気が付けば、俺の手は血塗れだった。 ナイフを、両手に握り締めて。 やくざの情夫は、腹から血を流して悶えていた。 『いてぇ…いてぇよ…ひぃぃ』 死にかかった芋虫がのたくっているようだ。 女は腰を抜かして怯えていた。後退り、喚く。 『この化け物!!こっち来ないでぇ!!』 ひぃぃ、と頭を抱えてうずくまる。 『ママ…。』 いてぇいてぇと喚く芋虫の喉を切り裂いて、留めをさす。 やがて芋虫は動かなくなった。 血に濡れた手を、女に差し出す。 『ママ…』 女は、その手を振り払い叫ぶ。 『この悪魔…!あんたなんか私の子じゃない!!』 俺はふたたび、ナイフを翳した。 『ママ、大嫌い。』
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加