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「うああ…っ」
自分の悲鳴で跳び起きた。体中、汗だくで酷く心臓の鼓動が早い。
「またあの夢か…。」
時計を見れば、午前6時。3時間は眠れた。よかった、睡眠薬が一錠浮いた。
もそもそ起き上がって着替えて。
さあ、朝ごはんの仕度だ。
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今朝はご飯に卵焼き、ほうれん草のお浸し、味付けのりに焼きジャケ。それに豆腐と若芽の味噌汁。典型的な日本の朝ご飯だ。
「おはよう、闇紫。顔は洗ったかい?早く食べないと遅刻するよ」
真那白がニッコリと笑ってご飯をよそう。髪をポニーテールにまとめ、三角巾を巻いてエプロンつけて。それでも様になるから憎らしい。
「真那白、そんなにいらないよ」
僕は卵焼きを突きながら言った。
「ダメ。育ち盛りなんだから、たくさん食べなきゃ。食べれるだけで、幸せなんだよ闇紫」
真那白はそう言って味噌汁を啜る。時々、こうして遠い目をしている時がある。食べ物は大切に、真那白の口癖だ。
「今日は部活かい?」
「うん。秋のコンクールに出す作品の仕上げしてくる」
僕は美術部。この秋県展に出品するため、夏休みから油絵を書いていた。
「楽しみだね。闇紫は絵が上手だから」
真那白がニッコリ笑った。僕は複雑だ。よりによってモデルを真那白にしてしまったからだ。
…堕天使シャムシエル。
その美貌故に驕り、人間の女に手を出して楽園を追放されたという。
僕は彼をモデルに、シャムシエルを描いた。
漆黒の翼は四対。かつて金色であった髪は烏の濡れ羽色。神の怒りに触れ、茨で終わりのない苦痛を受け続ける…
キャンパスでの彼は、遥かの天をその蒼い瞳で睨み、憎しみ続けている。
「恥ずかしくて見せられない」
僕はごまかすように味噌汁をすすった。
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