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先輩は、右手手首に黒いリストバンドをしている。…あれは、リストカットの後だ。
前に、ふと先輩が教えてくれたのだ。偶然バンドの隙間からちらりと見えた傷痕を見つけてしまった時。
…あ~、これ…?昔やったんだ。流行りのリスカって奴。アタシさ、中坊の時子供堕ろしてんだよね~
先輩は哀しい瞳をしていた。
…当時付き合ってた彼氏の子供。一途だったからね~アタシ。産みたいってだだこねたらフラれておまけに親に中絶させられたんだよね~
以来、眠れない時やふとした瞬間に、カッターで手首を切るくせができた。
…カウンセリングとかいろいろなことやっておさまってきたけど、まだ週一回はやっちゃう…
彼女はそう言って、傷痕だらけの手首を見つめていた。
***********
僕が絵を完成させた時、窓の外は真っ暗だった。
先輩もとっくに帰っていた。時計を見ればもうすぐ8時。
「あ、校門閉まる!」
この学校は午後8時にはオートロックで校門が閉まるのだ。
僕は慌てて鞄を持つと、廊下を走った。
危なかった。もう5分遅かったら閉じ込められるところだった。
ホッとしたその時、校門近くに人影が見えた。
腰まで届く、長い艶やかな髪。目を引く長身。
「真那白…?」
「お帰り、闇紫。迎えに来たよ」
真那白はそう言ってニッコリ笑った。
駐車場に止めてあるのは、黒いセダン。真那白の車だ。
助手席に乗り込んで、シートベルトを締めて。車はゆっくりとスムーズに発進した。
「闇紫、今日は何処かで食事をしようか。今日は給料日だから、好きなの奢るよ。何がいい?」
うーん、洋食か中華か和食か。迷う…
「じゃあ、俺のオススメでいい?」
真那白はそう言ってハンドルを右にきった。
そこは小洒落たダイニングレストランだった。適当に窓際の席に二人で腰掛け、メニューを開く。
「うーん、何食べよ」
真那白はさっさと魚がメインのコースを選び、僕は肉がメインのコースを選んだ。
「日本人はやっぱり魚だよ。俺はもう年寄りだからね、胃がもたれる」
年寄り?!は、ベッドの中じゃ底無しのくせに…!!
は!!何考えてんだ!!
僕は自分が考えてたことに一人で真っ赤になってしまった。
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