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罪と罰
「へえ、珍しいねェ。あんたが来るなんて」
「俺が祈りに来ちゃいけないかい?」
俺は、闇紫の通う学校の敷地にある教会に来ていた。ご挨拶な台詞で歓迎してくれたのは、この教会の下働きをしている青年、紅月(あかつき)。
猫のような大きな鳶色の瞳に、茶髪。ピアスだらけの耳にごついシルバーアクセサリー。見た目はヤンキーだか、ここの神父に諭され改心したそうだ。黒い髑髏模様のジャージを着て、教会を掃除していたらしい。
「お前に言われたくないね、紅月。もと『キラー』のNo.1が。今は鎖に繋がれてるんだろ?」
ニヤニヤしながら、タバコを取り出して火をつける。
「うるせぇよ。もう俺は喧嘩屋からは足洗ったんだ。あんたこそ、『ペニエル』の高嶺の花だったじゃねえか。それとここは禁煙だぜ先生」
相変わらず、口が悪いな。携帯灰皿に、タバコを押し付け、苦笑した。
「若気の至りだよ。恥ずかしい」
「モデルやめて作家様に転身だって?えらく出世したじゃねえか」
耳に痛い厭味を受け流して、聖水を手につけ十字をきった。
「ああ、神よ、俺をこの喧嘩バカで単細胞の言葉の暴力からお守り下さい」
アーメン。刹那、後頭部に拳の衝撃。
「あいて!」
「ざけんなバカ!!」
痛いな~もう。たんこぶができたらどうするんだ。うずくまって頭をさすっていると。
「ああ、紅月!なんてことを」
大丈夫ですか?と慌てた声がした。顔を上げてみた。
「はい、大丈夫ですよジェラルド神父様。お気になさらず。こいつとは腐れ縁ですんで」
ニッコリと愛想笑い。
神父様がホッと胸を撫で下ろした。心優しい、金髪碧眼の美しい神父様。紅月の十年越しの片思いの相手だ。
「今日は闇紫君をお迎えに?」
「いいえ。懺悔をしに」
俺はそう言って、光に照らされたステンドグラスを見つめた。
そこには、我が子イエスを抱いた聖母マリアが、静かに佇んでいた。
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神よ、貴方は私に
貴方の姿を与え
貴方を讃える声を
歓喜を謡う唄を
そして祈りを与えたもう
楽園を追放されし七番目のカイン
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