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奴とはダチとは言わないまでも時々カウンターで酒を酌み交わす仲になった。奴に「指名」がない日はカクテル一杯でいつまでもだべる。
真那白はぽつぽつと過去の話を漏らし始め、オレも自分の過去を話した。
互いの羽根の痛みを、晒し合う。
奴は母親に虐待を受けていたそうだ。そしてヤクザもどきのチンピラを一人殺している。
オレはまだ殺ってはいない。だがいつ人殺しをするかわからない世界にいた。半殺しで今までもって来たのが奇跡なんだ。
ココナッツミルクのカクテル(これも甘い)をちびりちびり飲りながら、ぼんやりと奴の独り言みたいな話を聞いていた。
奴は話をする時、人の顔を見ない。どこか、別の場所を見ていた。
そんなつかず離れずの関係が始まって数ヶ月後。
オレは運命の濁流に呑まれた。
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カインはハインを愛してしまいました。
罪は地上を飲み込み荒れ果て、神の怒りは稲妻を降らせました。
カインは最後の審判に、何故愛を説く神が愛を否定するのだと叫び続けました。
ハインはリリスによってカインを誘惑するよう命じられていましたが、いつしかカインを愛してしまったのです。
ハインは絶望しました。真実の愛に目覚めた悪魔は、その命をリリスに還さねばならないのです。
淫魔であるハインも、絶対者のリリスに逆らうことはできません。
泣くことのできないはずの淫魔が、涙を流して赦しを希いました。
『私は彼を愛しています。どうか彼を赦してください。私がすべて悪いのです。どのような罰でも受けいれましょう。だから彼をお許しください』
しかしハインの願いは神には届かず、カインは地獄に堕とされてしまいました。
ハインは真実の愛を奪われ発狂し、地獄の深淵にある深き血の湖に身を投げたのでした。
その手には、カインとの愛の証の白い百合の花が握られていたそうです。
そして永久に、二人は歎きの涙を流し続けるのでした。
「カルナヘナ」
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