影の月

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影の月

「あぁ…消えちまったか。やっぱな~」 オレはタバコの煙を吐き出した。 ふっー…。ややこしいことんなってんな。 「紅月さん。何か…知りませんか」 闇紫が駆け込んで来た。 汗だくで、息を切らしていた。 ジェラルド神父は布教に出かけていたため、オレは教会の掃除をしようとしていた時だった。 平日の、午後。つまりサボりか。 とにかく座らせて茶を出した。 ぽつぽつと語り出したのは、真那白の失踪。 昨日から帰らない。 家出か?いい大人がよ…てか、でもな。 「あいつを、追わねぇ方がいいんじゃねぇか?」 タバコの灰を灰皿に落とした。闇紫が息を呑む。 「あいつは多分、お前を疎んだ訳じゃねぇ。嫌いになって消えちまった訳でもねぇ。…秘密知った上でなお、お前を…」 馬鹿な奴。ホントに、昔となんも変わっちゃいねぇ。 「紅月さん。…真那白の、何を知ってるんですか」 あ~…やっぱ「あのこと」は言ってねーのか。 言える訳ねーよな、あんな酷い裏切りを。 「…愛される、資格ない。なんて、言ってたな。あん時とそっくりだ。…昔、な。オレの祖父にあたる男が…あいつの上客でな…」 あいつも、奴にイレ込んだよ。 奴の言うこと何でも聞いて、すげー尽くして…売りと客なんて関係から、どんどんズレてっちまった。 恋人同士だと、あいつは信じてたんだろうな。 あの頃…奴は縋り付く手を探してた。 オレも…救い出してくれるなら、きっと悪魔にだって魂を売っただろうな。そんな世界だった。 カラダ目当てに金を積んでくる野郎どもの薄汚ねー目を見続けて来た奴だ、差し延べてくれた手に縋っちまうのも、無理はねーよ…。 けれど、奴は一番信じちゃいけね~部類の人間だったんだよ。 「なんて…人なんですか。真那白が愛した人って」 湯呑みを持ったまま、真っすぐな瞳で闇紫が聞いた。 …聞きてぇかよ 「…覚悟はあるか?」 「…え?」 「…こっからは真那白の心の疵の一番ふけー所だ。オレァ奴とは腐れ縁だか、昔からの馴染みで疵も嘗め合った仲だ。…だから、わかんのさ」 …生半可な気持ちなら、ここで引き返せ。 じゃなきゃ、奴を救えねーよ天使様。
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