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目を覚ますと、何処か解らなかった。
体が動かない。怠い。暑い、寒い…。熱、がある…?
ここは、どこ…。
見慣れない、クマのぬいぐるみやハート柄のクッション、ピンク色のファンシーな家具。
こんなぶりぶりな部屋、住んでいるのは女性…?
覚えて、ない…。
ふいに扉が開いた。
可愛らしい、かなり作られた声質。
「ハァーイ。起きた?具合はどうかしら?」
?!ど、どちらさまですか…?
かなり美人だ。うん、今時の濃いメイク、メリハリのついたぼん、きゅ、ぼん(死語)の体。
お水のお姉様かな?
「す、すみません。ここは…?」
「あら、ごめんなさいね。あんた、道端に倒れてたから、連れて来たの。今時居るのね~行き倒れって」
彼女はきゃらきゃら笑って水を差し出した。
「あ、ありがとうございます…あの、」
「あ、ああアタシの名前?アタシはアンジェラ舞、ニューハーフカフェ「フレイア」のホステスよ」
ああ、オカマさん。通りで造り過ぎてると思ったな。
「すみません、お世話になってしまって。すぐにおいとまします」
立ち上がろうと、した。
力が入らない…。くらくらする。
へたりこむと、舞さん?がケタケタ笑った。
「熱が四十度ある人間が動ける訳ないじゃないの」
くすくす笑いながら、医者呼んだからじっとしてなさい、と彼女(彼?)は言った。
「二丁目の町医者だけど腕は確かよ、安心して?」
彼女(彼?)は俺の脇に体温計を差し入れ出て行った。
動けない以上、俺はここにいなければならないらしい。
目を閉じると途端にとろとろと重苦しい眠りが降りてくる。
止めてくれ、眠りたくない…!!
もがくが、無駄。底無し沼にはまったようにあっという間にそれは訪れ。
俺を引きずり込むのだ。
***********
俺は愛しいあの人に抱かれ、快楽の絶頂にいた。この人だけは俺を愛してくれる。
吐息を交わし、同じ体温を共有して…。
…愛してる、「」さん…
彼はシーツの向こうで微笑む。少しくすぐったそうに。
…私もだよ、「カイン」…
俺は彼に名前で呼ばれたことが無かった。
カインは、彼の書く小説の主人公なのだそう。
それが何を意味したのか、俺はその時はまだ知らなかった。
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