プロローグ

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僕は図書室が好きだ。煩わしいすべてが、この沈黙によって癒される。 「うーん、おしい!二組の奴が借りてったな。」 「じゃあこれでいい。」 僕は文庫本を差し出した。 「モーセ?えらくまた小難しそう本だな」 「好きなんだ。」 僕はそう言って笑った。 …モーセの十戒第7、姦淫してはならない… *********** 天使は人と交わると堕天する。生まれた子供は世界を滅ぼす化け物になるという。 神は非生産的な同性への愛を禁じ、逆らうモノをゲヘナ(地獄)へ落とす。…嫌な戒律。 「じゃあ俺なんて、死んだら地獄に堕ちるんだ。」 信じてもいない神に、俺は笑った。 「真那白先生。何笑ってるんですか?」 編集者の中嶋君が小首を傾げた。まだあどけなさが残る、小説雑誌「明月」の若手ホープだ。 「いや。なんでもないよ。再来週に20ページだったよね?」 俺は吸っていたタバコを揉み消した。最近本数が増えた。物書きは口淋しくなるらしい。 「はい。最近読者が増えてますよ、先生の小説!元カリスマモデルが書く本格サスペンス!」 俺はまた笑った。
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