プロローグ

6/6
前へ
/88ページ
次へ
モデルから物書きになったのは、家にいても出来る仕事を望んだからだ。 闇紫を育て上げるまでは、俺は家を出る訳にはいかない。 「けれど、すごいですよね!この快楽殺人鬼の犯行と心理描写。あまりにリアルでぞっとするっていうか…」 中嶋くんがやや興奮気味に言った。 俺は冷めかけたコーヒーを啜る。この喫茶店のコーヒーは、やや酸味がきつい。 「ヒトの心の闇は、嫌って程見て来たからね…」 「え?」 「なんでもないよ」 俺はそう言って微笑んだ。 喫茶店を出て、夕食の買い出しへ向かう。 打ち合わせが思ったより長引いた。闇紫は今日は部活がないから、6時には帰ってくる。少し早めに用意しなければいけないのに。 近くのスーパーへ入り、適当に物色する。 今日は肉が特売日。鶏肉と野菜でポトフでも作ろうか。 帰り道、見慣れた後ろ姿を見つけた。薄茶色の髪、やや華奢な体、私立高のブランド制服。 「闇紫、お帰り。早かったね」 「ただいま、真那白。」 闇紫はさも嫌そうに棒読みで返事をした。すぐそこなのに、一緒に帰るのは嫌らしい。 そんな顔しないで、綺麗な顔が台なしだ。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加