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モデルから物書きになったのは、家にいても出来る仕事を望んだからだ。
闇紫を育て上げるまでは、俺は家を出る訳にはいかない。
「けれど、すごいですよね!この快楽殺人鬼の犯行と心理描写。あまりにリアルでぞっとするっていうか…」
中嶋くんがやや興奮気味に言った。
俺は冷めかけたコーヒーを啜る。この喫茶店のコーヒーは、やや酸味がきつい。
「ヒトの心の闇は、嫌って程見て来たからね…」
「え?」
「なんでもないよ」
俺はそう言って微笑んだ。
喫茶店を出て、夕食の買い出しへ向かう。
打ち合わせが思ったより長引いた。闇紫は今日は部活がないから、6時には帰ってくる。少し早めに用意しなければいけないのに。
近くのスーパーへ入り、適当に物色する。
今日は肉が特売日。鶏肉と野菜でポトフでも作ろうか。
帰り道、見慣れた後ろ姿を見つけた。薄茶色の髪、やや華奢な体、私立高のブランド制服。
「闇紫、お帰り。早かったね」
「ただいま、真那白。」
闇紫はさも嫌そうに棒読みで返事をした。すぐそこなのに、一緒に帰るのは嫌らしい。
そんな顔しないで、綺麗な顔が台なしだ。
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