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コチコチ、秒針が音をたてている。いつのまにか、時刻は深夜を廻っていた。
「う…、少し、根を積めすぎた…」
ワープロとにらめっこを一時中断して、目薬を瞳に一滴ずつ、落とした。
こめかみがズキズキする。
「あ~、ここまでにするか」
ワープロの文章を保存して、電源を落とした。
仕事を終えると、急に眠気がきた。少し疲れているのかもしれない。そろそろ、三十路だ。もう若くはない。
廊下を横切って、三番目のドア。俺の寝室。
最初から、梓とは部屋は別だった。
入ると、ベッドが一つ、棚が造りつけで一つ。
シンプルな部屋。
俺はシャツを脱いで、ベッドへ横になった。
眠りは、すぐ訪れた。
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…ママ、やめて、痛い!…
恐ろしい夜叉のような顔をした女が、幼い男の子を殴りつけている。髪を振り乱し、喚き、少年の上に馬乗りになって押さえつけ、頬を殴り続ける。
『この悪魔!あんたなんか産むんじゃなかったわ…あんたのせいで私は葵に棄てられたのよ!』
少年は泣きながら謝り続ける。
…まま、まま…ごめんなさい、ごめんなさい!
赦して…っ
少年の顔は真っ赤に腫れ、青痣ができた。女は狂ったように叫び続ける。
『疎ましい子!あんたもあいつにそっくりよ。その綺麗な顔で女をたぶらかして…ああ、憎い!』
女は夫に棄てられた。ほかに女を作り、夫は出て行ったのだ。
そして少年は父親の美貌を受け継いでしまった。
俺は母親を、殺しかけたことがある。
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