Ⅰ.渋谷

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「すいません、これ!」  夕暮れの渋谷駅前。スクランブル交差点をを抜けた先にあるOPEN間もないフラワーショップにARISA(ありさ)はいた。お店に入るといきなり店頭にある一番目立つ赤い薔薇の花を指差した。 「はい、いらっしゃいませ――」  ちょうど花とディスプレイを整えていた若い茶髪の店員は、振り返りARISAを見て手を止めた。  店員の視線はARISAの足元で釘付けとなっている。  ARISAは、眼に突き刺さりそうなくらいショッキングなフューシャピンクのエナメルサイハイブーツを履いていた。そのショッキングな色と、今にも転びそうなくらい高い金属製の高さ15㎝以上はあるピンヒールが異彩を放ち、店員の眼はよもや他には行かなくなっていた。  ちなみに、ARISAの履いたブーツは、ファッションが大好きな人間なら誰でも知っている、イタリア製の一流メゾンが発表した新作だった。金額もさることながら、デザインも個性的で秀逸。特長は、足首が異常に細く作られており、ふくらはぎから膝にかけてエナメルが吸い付くように包み込み、太ももまでぴったりとしている。よく足首からずっとジッパーが閉まるものだと見る人は言うだろう。  要は、相当脚の形が良くなければ、ジッパーも閉まらないし、綺麗には履きこなすことはできないのだ。履く人間を選ぶという点で日本人の体系には難しいアイテムであり、最近では、アメリカのセレブタレントが履いていたことで話題に火がついた。いまや若い女性向けのファッション誌には必ず掲載されており、ギャル系や、渋谷系の若い女子には憧れのブーツだった。  ARISAはそのブーツを見事に履きこなしている。 「こ、この薔薇ですか? ルビーレッドって言う名前なんっすけど。お客さんにすっごい似合うと思いますよ……」と、顔を若干赤くして言い、頼みもしないのに長時間花の説明を続けた。
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