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東京のある大学のコンサートが開かれた。二時間ばかりだった。開演直後、消灯演出と共に絶妙な手附きで指揮者とピアノを中心に弦管打楽器が次いで始める。もしやと思い注意してみると、その中に高校時代の親友が居た。 バイオリンを弾いて居たから横顔しか魅得なかったが、何から何まで同じだった。その背中が凛々しく魅えた。緩急を附けながら弾いて居た。 ヴェートーベン・クラシックだった。情熱的な『運命』に惹かれるみた様な感覚に支配されて居た。呑みならず、旧友の成長と現在の自分と比較して仕舞った。現実を魅せ附けられた。 高校時代に奴は、「俺はテニスでデカくなる」などとほざいて居た。然し、どう云う事かバイオリニストになるために進学して居た。 俺は奴と交わした目標を見失い、ある小さな企業の社員である。上司には怒鳴られ、同僚や後輩には観下されて居る。陰で悪口を囁かれ噂され、妙な当だ名まで附けられて居る。女衆からは敬遠される。 俺は気になって居た。アイツの横顔が…。己が道を貫き通すアイツの顔が…。急に情けなくなって来る。みるみるうちに萎びて逝く俺は、生きて居るのだろうか…。半ば鬱気味になりながら俺の人生は本当に
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