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土方歳三は寝起きが悪い。
その説は壬生の新撰組屯所内で、まるで都市伝説の如く囁かれている。
あたしが断言しよう。寝起きは、最悪だ。しかし言葉だけで伝わることは少ない。
小姓・下山美緒は一週間の記録を此処に記すことにした。
一日目、晴れ。
隣に敷いた布団で眠っている沖田さんを起こさないようにそっと起きる。
太陽が顔を出すと共にあたしの一日は始まるのだ。
「…………さて」
どうやって起こそう。
起きろ、その一声だけではピクリとも動かない。少し声を荒げたところで、そもそも聞こえてすらいないのだ。
何かしらこちらから行動を仕掛けることが絶対条件………そう、先手必勝(メイク・ザ・イニシャル・ムーヴ)。英語分かんね。
「うーん………」
屯所に来て一週間の頃、耳元で大声を叫んだ。あれは有効だ。
しかし硯が飛んでくる可能性がある。あたしはモロに眉間に受けたのだから。
だが、今のあたしには例え何が飛んでこようと避けるだけの瞬発力、反射神経、運動能力が備わっている。
それは屯所で過ごす日々で養われた。過信だろうか。
「…………よしっ」
今日は此処に来たばかりの頃の自分への挑戦を込めて、“声”で勝負することにした。
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