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「やっぱり海はいいよね」
瀬戸内海をいくフェリー船の通路で、一人の少女が海を眺めながら呟く。
外見から見た年齢は十四か十五くらいだろうか。
背は同年代に比べるとそれなりに高く、手足もすらりと長くて、触れれば折れてしまいそうなほど細い。
肩まで伸びた髪は輝いて見えるほどの見事なブロンドで、肌は透き通るような白、瞳は海のように澄み切った青。
その容姿はまるで人間ではなく、高名な人形師によって作られた芸術品のようで、美少女と呼ぶにふさわしい美しさだった。
ただ……。
少女が着ているのは迷彩柄のシャツにジーンズという服装で、少女の容姿には似合っておらず見る者に違和感を感じさせた。
「海を見ていると心が落ち着く……。このままずっと見ていても飽きな……うわっ?」
「きゃあっ」
潮風を気持ちよさそうに浴びていた少女だったが、突然腰に何かがぶつかった思うと、下の方から子供の声が聞こえた。
声がした方を見ると、そこには十歳くらいの女の子が尻餅をついていた。
おそらく通路を走っていた時にぶつかったのだろう。
少女は尻餅をつく女の子に手を差し伸べて助け起こす。
「大丈夫?」
「うん。おねーちゃん、ありがとう」
「おねっ!」
女の子の言葉に少女の顔がひきつる。
「……………………じゃない」
「え?」
少女が蚊のなくような声で呟く。
(俺はおねーちゃんじゃない! 俺は! 俺は『男』なんだよ!!)
流石に女の子に怒鳴るわけにもいかず、少女……いや、『少年』は心の中で絶叫する。
彼の名前は礼雄(レオ)・ロビンライト。
日本人の母とイギリス人の父をもつハーフの少年である。
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