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「おねーちゃんどうしたの? お腹痛いの?」
「だ、大丈夫だよ……」
礼雄は心配そうな顔で自分を見る女の子に、苦労してつくった笑顔を見せた。
「何も心配しなくてもいいから安心して。それより、もう走っちゃいけないよ?」
「うん、わかった。じゃーねー、おねーちゃん」
女の子はそう言うと、通路の向こう側に走っていった。
その後ろ姿を見送った後で、礼雄は深い深いため息をつく。
「やっぱり……、女に見えるんだな……俺」
この美少女と見間違えられる程に整った容姿は、礼雄にとって最大のコンプレックスだった。
この顔のせいで、町を歩けばほぼ十割の確率で男にナンパされる。
男子トイレに入れば先客の男達が慌てて自分を追い出す。
学校の体育の授業で服を着替えるときは、自分一人だけクラスメイトとは別の教室。
前に一度、体育教師と女子のクラスメイト達に「女子の教室で着替えるか?」と聞かれたことがあり、その時は泣きそうになった。
「はあ……」
礼雄はもう一度ため息をつき、何気なく海を見ようとすると、そこであるもの気づいた。
視線の先にあったのは、一人の少女の後ろ姿。
顔を見えなかったが、背は自分と同じくらい。
腰にまで届く艶のある黒髪をしていて、着物のような服を着ていた。
礼雄は最初、自分と同じように海を見ていると思ったのだが、よく見ればその少女は通路の手すりの『向こう側』に立っていた。
少女は僅かしかない足場に足を置き、両手で手すりをつかんでいる。
あれでは手すりから手を離すとすぐに海に落ちてしまうだろう。
(ま、まさか自殺っ!?)
礼雄は慌てて少女の元に駆け寄った。
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