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「麻紀ちゃんの部屋だ」
階段を上がって伸びる廊下の横に洋室があった。
ドアは開かれていたので覗くわけでもなく部屋の内部が廊下から伺う事ができた。
窓辺に勉強机がある。
その勉強机の引き出しの一番上の棚から白い紙がのぞいているのを亮輔は見つけた。
引き出しの中には一人の人物から送られてきている手紙で一杯だった。
封筒の裏には『桜島エミリ』という名前と『富士見丘病院』の住所が書かれている。
「富士見丘病院…。そういえば麻紀ちゃんは去年、肺炎で入院していたんだ。その時に知り合った人かな」
「さすがに内容を盗み見るのはどうですかね」
須藤が亮輔を窘めるように言うと、引き出しの中へ手を伸ばした。
「写真があります。この子がエミリちゃんですかね」
須藤が差し出す写真には病院の中庭らしき場所で並んで笑っている、麻紀と歳の同じ頃の少女が映っていた。
亮輔がその写真の裏を見ると
『麻紀、エミリ 7月14日』
と書かれていた。
「勝手に人の机を荒らすのはよくないぞ」
亮輔は須藤を窘めると机に背を向け部屋の中を伺った。
火事があった事などやはり感じさせずにその部屋は綺麗に整理されていた。
この部屋の丁度真下が火災の起こった和室だというのに、煤の跡すらない。
ここまで不自然な火災現場は見たことがない。
和室の火災が小火程度だというならまだしも、柱を残して壁も床も落ちていたのだから。
まるで二人だけを火に包んで殺す事ができれば事足りたといわんばかりである。
「これ、なんの絵ですかね?」
ふと須藤が壁に張られている絵を見ていった。
丸い的のような絵の下に数字が1から36まで書かれている。
そしてその下に
『ダインルーレット』
と書かれていた。
「ルーレットの絵かな」
「この数字の横、何か文字を書いて消したような跡がありますね」
須藤に言われて数字の横を見ると、一度えんぴつで書かれた文字が消しゴムで消されているようだった。
亮輔がそれを近くで見ようと近寄った時、部屋のドアを鑑識の男が開けた。
「やっぱり困りますよ桐生さん。いくら火事の規模が小さいと言っても現場は危険です」
亮輔はしぶしぶ彼の言葉に従い部屋を出た。
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