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沙代子には1500万の借金があった。 以前付き合っていた男には借金癖があり、クレジット会社から闇金にまであちこちに負債を作り、その額は利子でどんどん膨れ上がっていったらしい。 しかし当初そんな事になっているとは聞かされていなかった沙代子は、 『新しい借金の連帯保証人になって欲しい』という彼の申し出にしぶしぶ応え、名前と印鑑を貸したのだ。 その数日後、彼はゆくえをくらまし、代わりに沙代子の前に現れた借金取りが 『1500万』という大金の返済を要求してきたのだ。 それから沙代子はいつも誰かに監視されながら、夜の商売を初め、僅かずつその返済に当てていた。 最初は泣きながら働いていた沙代子も、キャバクラの仕事が次第に板につき、仲間と呼べる同僚やママに支えられてここまで2年やってきた。 しかし先日借金の返済に事務所へ訪れた時、 『返済額はまったく減っていないよ。あんたが今まで払ってきたのは利子だ』 という現実を知らされた。 一時は首を吊ろうと考えたが、今の沙代子には友人もいれば愛しい恋人もいた。 自棄になって歓楽街で一人はしごをしていた時、路上で寝ていた沙代子を巡回中に見つけ、家まで送り届けてくれたのが亮輔だった。 亮輔は他の刑事とは違い、夜の商売の女を見るような歪んだ眼差しで沙代子を見る事はなかった。 それどころか何も話さないうちに 『君は今までどれだけの苦労をしてきたんだろうね』 と親身になって沙代子の身の上話をきいてくれた。 借金の借り換え返済を勧め、相談センターにまで一緒に付き添ってくれた。 お陰で沙代子はそれから自分を監視する影に怯える事もなく、順調に借金返済ができると思っていた。 しかし、1500万を返済するのにはそれでもまだまだ年数がかかる事がわかった。 できれば今すぐにでも借金から解放されたい。 そうすれば亮輔とも昼の太陽の下で堂々と暮らす事ができる…
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