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カラカラと音を立てて玉はポケットに収まった。
「31番 黒」
吊り子がその出目を読み上げる。
沙代子はそっと目を瞑りその場に俯いた。
「貴女の負けです。それではナンバー31のモノを頂きます」
敗北感にうな垂れる沙代子であったが、この勝負の結果が意味する物が正直わかっていなかった。
『嗅覚』
どうやって自分から嗅覚を奪うというのだろう。
それはゲームが終わった後に手術で嗅覚機能を奪われるという事なのだろうか。
「嗅覚を失う事は人生の楽しみの一つを失う事でもあります。
匂いのしない食事程、苦痛なものはありませんから…」
木馬が重い声色でゆっくりと言う。まるで自分が嗅覚を失った経験があるかのように。
そしてまた柔らかい笑みを沙代子に向けた。
「えっ…?」
鼻の奥をツーと液体が流れる感触があったかと思うと、沙代子の目の前の机に
ボタボタと鮮血が滴った。
沙代子は思わず自分の鼻を押さえた。
血がでている。
これで嗅覚を奪われたというのだろうか?
先程から特に気になる匂いがなかった為、違いはわからない。
しかしそうだとすれば、彼等は一体どういう方法で沙代子の嗅覚を奪ったのか…
理解できない状況に、沙代子の体の振るえはますます酷くなった。
「大丈夫ですか?では次のゲームにいきます。
同じくベッドは『赤』でよろしいですか?」
訊かれた沙代子にはもはや頷く余裕さえなかった。
ただ木馬の手によって回されるルーレットを見つめているだけだった。
「嗅覚はこれ以上頂く事はできないので、以降31番はノーリスク枠となります」
「もうやめて!!お願い、お願いだから!」
椅子を立ち上がった沙代子は木馬に血を吹き飛ばしながらも抗議した。
木馬は笑顔で首をかしげながら
「もうルーレットは回っているんです。レッドから変更するなら早くおっしゃってください」
と言った。
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