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亮輔が神無景子の家を出ようとした時、先程まで声をかけていた男とは別の鑑識の男がやってきた。
「桐生さん、これ被害者の持ち物なんですが……すっかり和室で燃えて消えているものだと思ったら、奥の仏間の箪笥の奥に入っていました。
日常的に持ち歩く物ですが、カード類や現金も入っているので、厳重に保管していたものだと思います。……あるいわ。
見てもらえますか?」
訝しげに亮輔は振り返ると、目の前にエナメル皮のショルダーバックが突きつけられた。
「この中の財布です」
そう言われて亮輔はバッグの中の薄いピンクの長財布を取り出した。
中を開けると札も小銭もカードもない。会員証やポイントカードが入っているだけだ。
「強盗放火だったんじゃないのか!」
須藤がはっとなったように男に詰め寄った。
「はい、その可能性が出てきました」
「被害者には火傷以外の外傷はなかったんじゃないのか?」
「寝込みに火をつけられたんじゃないんでしょうか。
消防署への第一通報は夜中の2時です」
夜中の2時。いつもならマリブの閉店時間だ。
夜の商売をしている人間は普通の人間と睡眠リズムが違う。
夜の2時なら神無景子はまだ寝るには早い時間だったはずだが……
「わかった。
昨晩この辺りで不審人物がいなかったか、
それから被害者の知人にも当たってみよう。
須藤は上に報告しておいてくれ」
従順な後輩はすぐに自分の携帯電話を取り出し、連絡を取り始めた。
「では私達はここで一旦署に戻ります。何かあれば連絡ください」
鑑識の男は一礼して桐生達を送り出した。
「桐生先輩……申し訳ないんですが」
携帯を切った須藤が浮かない顔つきで言った。
「本庁の捜査会議の方に来るように、だそうです」
「殺人の方か?なんなんだ、出て行けと言われたら今度はなんの説明も無しに呼び出しかよ」
さすがの亮輔も語気が荒くなってしまった。
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