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『千鳥町連続殺人事件』と幕の張られた部屋のドアをくぐり、亮輔達は会議室の後ろに余っていた席へと着いた。 すぐに刑事が横の席に滑り込んで来た。 「悪いな呼び出して」 彼は2年前まで亮輔達と同じ千鳥署で警部補をやっていた刑事、池内淳(イケウチジュン)だった。 本庁に移動、昇進してからも昔の付き合いでたまに捜査事情を話してくれたりする、亮輔の良き後輩にあたる。 「捜査状況はどうなんだ。目撃者は?」 亮輔が小声で尋ねると、池内は首を横に振った。 「殺害現場を見たという目撃者は相変わらず…ただし、死体が現れるのを見たという人物はいる」 その言葉に敏感に反応した須藤が、胸元のポケットからすばやく手帳を取り出した。 「千鳥町7丁目のホステスだ。彼女の証言はなんというか…あまり信頼されていない。 というのも彼女自身が容疑者の一人だ。 自分の部屋でふと目を覚ましたら、隣で寝ていた筈の愛人が消えていた。 不審に思って寝室を出てトイレや風呂場を探したんだが見つからず、寝室に戻ると そこに血まみれの遺体が転がっていたというんだ」 「死体の瞬間移動か」 馬鹿馬鹿しいと亮輔はこめかみを抑えたが、隣の須藤は必死でメモをとっていた。 「何せ殺されたのはみんな歓楽街の人間。知人友人の関係は広くて複雑だ。 殺された者同士の中にも知り合い同士というのもあれば、本人がヤクザ絡みという奴までいる。 容疑者は多すぎて絞り込めない」 なるほど、と頷いて亮輔は自分の手帳を取り出した。 「それは…?」 不審気に眉根をよせてくる池内に、神無景子の携帯に登録されている人物の登録番号と名前を書き写したものを見せた。 「匂うな…」 「神無景子の事件は他にも不審な点が多々残っている。 俺の勘だけど、この殺人事件とは何かしら関連があるような気がする」 池内は亮輔の手帳の内容を自分の手帳に写し取った。 「火災の被害者も容疑者の一人という事か」 「いや…」 亮輔は思わず口ごもった。 日頃世話になっていた女性の事を亮輔はよく知っている。 どんなに気が狂ったとしても一晩でこんな殺人劇を起こせるような女性ではない… しかし知り合いへの情で否定するには不十分なのはわかっていた。
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