1269人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ鑑識の人間は二人しか来ていない。
亮輔もそれ程早くこの現場に来たわけではないが、警察の人間が集まらない理由は他にあった。
「もしかしたらこれが今流行りの、この世の終わりかもしれませんね……」
ブルーシートを持ち上げ須藤はそう言うと、立ち込める異臭に思わず口にハンカチを当てた。
そこには、無残にも体中の間接がありえない方向に曲がりくねり、口から吐血と嘔吐の跡を残した、髪の長い女性の遺体があった。
その目は死の瞬間まで大きく見開かれていたようで、眼球は今にもこぼれ落ちそうである。
亮輔は自分の手にまだ付けられていなかった手袋を手早く付け、須藤の手を軽く握った。
須藤は亮輔の言いたい事がわかったように、シートをそっと元に戻す。
「この女性も千鳥町のホステスらしい。でも1丁目で見つかったホステスとは店が違う。
【ミルキーウェイ】の雇われママだそうだ。
あっちはその向かいにある【美雪】というクラブだ」
須藤はそっと立ち上がった。
「たった一晩で千鳥町歓楽街の人間を10人
……それも誰にも見つからずにそれぞれ離れた場所で殺害。こんな手口の殺し……
人間業じゃ考えられないですよ」
弱気な声で須藤は呟いた。
案外、この世の終わりというのを本気で信じているのかもしれない。
その顔色は心なしか悪かった。
無理もないなと亮輔は思った。
亮輔とて刑事になってまだ7年。
この後輩刑事に至ってはまだ3年。
無残な遺体を見て吐かなくなっただけでも随分成長したものだ。
この遺体をこの公園で発見した男性はその場で気絶し、1時間も眠ったまま倒れていたのだ。
その第一発見者は今千鳥署で調書を取っているが、未だに思い出しながら空嘔吐を繰り返しているという。
「飲むか?少しスッキリしたいだろう」
亮輔は須藤に笑いかけるとズボンの後ろポケットに入れていた缶コーヒーを須藤に渡した。前もって買っておいたのだ。
以前は嘔吐の後のお決まりとして飲ませてやっていたものだが、未だに癖になっていた。
それでも須藤は有難く亮輔からコーヒーを受け取って、プルタブを持ち上げた。
「桐生さんは他の現場は?」
聞かれて亮輔は頭を振った。
最初のコメントを投稿しよう!