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「うげ……純一……」
俺の方に顔を向けた春風は明らかにしかめっ面だった。
「お前!家にも帰らず何してんだよ!真っ直ぐ家に帰らずに、こんな時間までフラフラして……」
俺が貸してやったスウェットを着て、今の今までほっつき歩いていたわけだ。
俺はともかく親父さんや小町さんたちにも迷惑をかけて……一体コイツは何がやりたいんだ?
「えっと……あ、あれだよ!スウェット借りたままじゃダメだと思ったんだよね!家に帰る途中でそれに気付いて……そんで純一の家に戻ろうと思ったら道に迷って……」
迷うわけがないだろ。俺の家と春風の家は近所にある。割合入り組んでいる住宅街とは言っても長年馴れ親しんできた土地だ。どうかしてる。
「…………」
「あ、あはは……やっぱ……それじゃダメか……」
所詮、何かを誤魔化す嘘だったんだろう。見透かされたと気付いたのか春風は苦笑いをしながら舌を出した。
「……何で家に帰らない。これほど色んな人に迷惑をかけてるんだ。余程の理由があるんだろうな?」
もう理由をはぐらかすことはさせない。コイツのためにも、コイツを心配する人たちのためにもはっきりさせておく必要がある。
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