そしてそれぞれの帰り道

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親のいない不憫さは良くわかっているつもりだ。それが幼い頃からの状態なら尚更。 母さんはいない。父さんも滅多に帰ってこない。日に日に慣れていく感覚に対しても、俺はどこか寂しさを募らせた。 やがて。 何に対してもあまり興味を示さず、ひたすらに惰性を求める、冷めた藤原純一が完成してしまった。その日が楽しければ、それでよし。満足していた。退屈で惰性そのもののぬるま湯な生活から抜け出そうとは思わなかった。 それで笑えていられるんだから。周りの奴らとバカやって、それで心の底から大笑いしたことだってある。 そして最近気付いたこと。 俺は冷めた人間であるが、親しい間柄の人間とはとことん一緒にいたいと思っていること。 とことん仲良くして、とことん一緒に遊んで、いつまでも親しい間柄でいたいということ。 例を挙げるとするならば。北沢、山口、帝、そして……春風。心を許せるような人間は少ない。だが少ないからこそ、俺はコイツらといつまでも仲良くしていきたい。  『なにかあれば力になりたい』 春風に抱いた気持ちだった。それは『友達』として、アイツのことを心配していたからこそだった。  その気持ちにどこか違和感を覚えたのは、気のせいじゃないと思ったんだ。  
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