最低の夜に最悪の男前

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くそ!やったったー。 3分は遅刻しそうや。 日が暮れて街灯の付いた大通りをひたすら走る。 カバンはガサガサゆうし、腕に抱えた楽譜ケースのせいであんまり速く走れん。 でも楽譜ケースだけは絶対に雑には扱えん。 楽譜はウチの命ぐらい大切やから。 走り出して10分ほどして、国道沿いの小さなお店の裏口に慌てて駆け込んだ。 裏口の鉄のドアがガンッて大きい音をして閉じた。 「ぉ… 遅れてます!すいませんでした!」 ハァハァ上がる息を落ち着かせながら、頭を下げて言った。 「おー、陽奈子。遅れてますておかしいやろ。遅れましたやろーが!」 「す、みませんで…したぁ。」 厨房の方から顔だけちょっと出して男の人がニヤニヤ半笑いで話しかけてきて、ついでにウチの間違いにツッコんできた。 「すみません、恭二さん。」 「えーよ、えーよ♪あんま謝んなや。今忙しいないし、ゆっくり着替えろ。」 「ありがとうございます。お言葉に甘えます!」 「んー。」 そう言われると、荷物を狭い通路にぶつけながら控え室に入った。 控え室は広い。無駄に。 テレビもソファーもエアコンまで付いて、快適すぎる空間だ。 壁ぎわの着替え用カーテンの中に入り、ふぅと一息ついて着替え出した。 着替えながら改めて今日綾に言われた事をゆっくり思い出した。 別に無理はしてないし、でもお金はやっぱいるんや。 綾は心配してくれるけど… だって新しいサックス欲しいねんもん! もうお兄のお古なんかじゃ嫌やわ。 あのサックスだってお兄が学校からもらってきた物やからずいぶん年季入ってるし、音も擦れてきてる。 そろそろ自分の欲しいねん。 あの橘楽器のウィンドウに飾ってあるサックス。 絶対買うんや! それまでの努力。努力。 彼氏の話しは… 「陽奈子もー無理!早く店出て!」 恭二さんの慌てた声が部屋の外からした。 ヤバイ。のんびりしすぎた。 「はーい!今すぐ。」 ソムリエエプロンを腰に巻き付けすぐ店に出た。 .
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