-月下の出逢い-

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「…それで、どうやって帰るって言うんですか?家はどの辺りなんですか?」   沖田が溜め息混じりに問い掛けると朔はうなだれた。 沖田の言う通りだ。   帰らなくてはならない。   その衝動につき動かされたが、帰り方が分からないのにどうやって帰るのだろう。   タイムスリップに深く関わっていると思われる桜の樹も、今は静かに月明りに照らされているだけであった。   何も起こりそうな気配はない。     「帰る場所が無いんですか?」   家の場所を聞いても返答がなく、二人の間に沈黙が流れたが、沈黙を破ったのは沖田の方であった。   家の場所が言えない。   その無言が示す意味は明らかだった。   そして、沖田の言葉に朔は泣きそうな顔で頷いた。   未来から来たなんて言えないし、言ったところで信じてはもらえない。たとえ信じてもらえたとしても結果は変わらない。   沖田に時を超える方法など分かる訳も無いのだから。 結局は帰る場所がないのだ。   「…そうですか…」
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