-月下の出逢い-

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沖田は暫く考え込むように目を閉じていたが、やがて、にっこり笑うと朔の腕を掴んでいた手を離し、朔の頭をぽんっと叩いた。   「では、屯所に来たら良いですよ。うちは女中不足なので、うちで女中の仕事したら良いですよ」   「……は?」   いきなりの沖田の言葉に朔は唖然とした顔を向けた。   「大丈夫です!こう見えても私、偉いんですよ?近藤さん達には私がお願いしてあげます」   そう言い無邪気に笑う沖田に朔は、冷めた視線を向けた。   沖田総司といえば、偉くて当然だ。何せ副長助勤筆頭。局長、総長、副長に次ぐ地位だ。 女中の口利きくらい訳も無いだろう。   だが…   「…どうしてそこまでするの?見ず知らずの人間に。私なんて放っておけば良いじゃないですか。何処の誰とも知らない女。私が長州の者だったらどうするんですか?」   今まで、両親と兄以外に優しくされた事などなかった。 当初は優しかった家庭教師も使用人も、朔が疎まれた子と知ると手の平を返した。   誰も彼もが朔を幽霊の様に扱った。すぐ側を通っても、誰も気にしないで通り過ぎる。   朔に構えば大旦那の怒りを買うから。 我が身可愛さで…。   だが、それも人の性。誰だって進んで厄介事を抱え込みたくは無い。 当然の反応…。
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