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「…朔。九条 朔」
朔は地面にしゃがみ込むと、近場にあった木の棒で『九条 朔』と自分の名を書いた。
「朔。新月の名ですね。そこに確かにあるのに目には映らない月」
(…そう。私は存在するのに誰も存在しないものとして扱う。名前の通り…)
朔は僅かに表情を曇らせた。
きっと沖田も言うのだろう…
今まで幾度となく言われた言葉を。
『新月を意味する名前…貴女にぴったりね』
朔が心を閉ざす様になってからは、口を揃えて皆そう言った。
言葉の裏には、誰にも相手にされない朔自身を、新月になぞらえた皮肉を込めて。
心を閉ざし、感情らしい感情を見せなくなった朔は、口数も少なく、その物静かさがまるで新月のようであった。
そして、人形の様な漆黒の瞳は、どこか深い闇を連想させ、暗い雰囲気を纏っていた。
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