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「えっ……」
「あれが、監督……?」
思わず絶句した啓太の横で、瀬高が呟いた。信じられないような、吹き出しそうな言い方だ。
「まあ、初めて見たときはビックリするよね。俺も去年初めて見たときは、笑いを押し殺すのに必死だったわ」
決して監督に聞こえないよう、牧山が小声で言う。その言葉で、この場にいる見学者のほとんど全員が笑った。
彼らが笑っているのは他でもない。監督の身長が、かなり低かったのだ。おそらく、160cmに達するかどうかというくらいだろう。
「こんにちは!」
牧山が頭を下げる。それにならって、啓太らも頭を下げた。
「おう。牧山、今日の見学者はこれで全部か」
「はい。また後から来るかもしれませんが、来た生徒は全てここに連れてきています」
「そうか。ありがとう、練習に戻っていいぞ」
監督はそう言うと、啓太らの前に立った。牧山は一礼し、練習に戻る。そして、監督が再び口を開いた。
「えー、野球部監督のオオキです。こんなに小さいですが、オオキです」
――オオキ……大木か? これって、笑うとこ……?
周りの誰も笑わないので、啓太も笑いを堪える。中学校の先生は恐いと聞いたことがある。一人だけで笑う勇気はなかった。
「……今の、笑うところです」
――あ、笑っていいんや
監督の話し方が面白く、笑うのを許可されたのもあって何人かが吹き出した。瞬く間にに場の空気が和んだ気がした。
「はい。じゃあね……この中で野球未経験の人はいるかい」
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