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大木の言葉に、何人かが手を挙げる。啓太が黙って待っていると、大木と目が合った。
「未経験者は君だけか」
――え?
大木の言葉を聞き、啓太は振り返る。啓太以外の生徒は、全員が手を上げていた。
「あ、はい。友達に誘われて……でも、やっぱり未経験者ですし、身長も低いので、入部するかは……」
そこまで言って、啓太は口を閉じた。あくまでも、これは部活見学であるため、気を遣いすぎる必要はないと思うが、わざわざ入部を否定することもないだろうと思った。
しかし大木はある程度理解したのだろう。一度頷くと、啓太に近づいてきた。
「ついていけるかどうかが心配で、迷っているのか」
「はい……」
言い当てられ、啓太は小さく答える。場の空気が悪くなるかもしれない。彼は耐えきれずに下を向いた。
その気持ちをぶち破るかのように、目の前にいる小さい男は大きく笑った。啓太は顔を挙げて大木の顔を見る。何が面白いのかと思った。
「安心していい。君の前にいる男が、チビでもやっていける前例だ。これでも、控えメンバーながら甲子園に行ったんだぞ。俺は」
「はぁ……」
その後も大木は、ダイソウで塁に出て甲子園でトウルイを決めたとか、甲子園のホームベースを踏んだとか、よく分からない単語も交えながら、いかにチビでも野球ができるかについて説いた。
正直、啓太は甲子園に出ることがどれだけ凄いのか分からなかったし、大木が何を言っているのかもよく分からなかった。
しかしそれでも、彼が本当に野球を好きでいることは、理解できた。
――チビでもそんなに楽しめるんなら、やってみようかな……
大木の熱弁を聞きながら、啓太は思った。
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