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入学式も滞りなく終わり、教室で自分の席に着く。啓太に与えられた席は、窓側から3列目の前から3番目。見事にど真ん中だ。
自分の不運さを呪いつつ席に座ると、不意に目の前が少し暗くなった。といってもほんの少しで、影に覆われたという感じだ。啓太が少し顔を上げると、その理由はすぐに分かった。
「ああ……そうか。瀬高が俺の前なんやな……」
「そりゃあ名簿順の席やからな。お前の前は必然的に俺や」
「うん……せやな」
思わずため息をつきたくなる状況で、啓太は素っ気なく言葉を返した。
テンションが上がらない理由は、目の前にいる男にある。もちろん、瀬高が嫌いなわけではない。むしろ、先ほど会話をした限りでは、好印象を持っていた。ただ、彼の図体が問題なのだ。
――み、見えない……
目の前に立ち塞がる巨大な壁を見ながら、啓太はため息をつく。黒板を見るのも、一苦労だ。
「はい、前向いてくださあい!」
おそらく担任のものであろう高い声に反応した瀬高が、口を尖らせながら前を向く。彼の他にも、それぞれ近くの席に座ってる人と会話をしている者がいたが、彼らも同様に前を向いた。
啓太は瀬高の背中から首をはみ出させて、担任を見る。ほぼ間違いなく20台、おそらく自分達と一回りほどしか年齢に差がない。顔も清楚で、ロングヘアー。もろタイプだ。
「えー、皆さん入学式お疲れさまでした。改めて挨拶をしますね。1年5組の担任になりました、ミナグチアズサです。よろしく」
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